西 穂 独 標 (岐阜 ・長野) 2,701m(81座目)

平成10年8月7日(金)雨のち晴

〜頂上で2時間、コーヒー沸かして粘る〜

 


 
           ゴンドラは…
雨だ、どうする

中尾温泉に前泊し、新穂高ロープウエーに乗り山頂駅
から独標までピストンする予定だった。
しかし…
早朝から大雨、宿を出て新穂高温泉に向かう車中、
今日の登山を半ばあきらめていた。
「こんな大雨の日にロープウエー運行してないやろ」
ところが…
ロープウエー駅まで来るとなんとゴンドラが動いている。
すでに登山姿の何人か駅入口に集まっている。
「へぇ〜こんな悪天候でも登る人達がいるんだ」
異様ともいえる光景に煽られるように雨合羽を着てゴンドラに乗り込むと富山から来たというご夫婦と
二組だけでガラガラ。
上に上がればひょっとして雨雲を抜けて晴天かも。
だが淡い期待も空しく山頂駅を降りると濃霧と雨、
登山口で登山届けを記入し投函する。

よし!もうこれで上るしかない。
 

 


西穂山荘

 

行くか戻るか…

雨の中、重い足取りで西穂山荘に向かったが初めて見る山荘の屋根が見えた時はアルピニストになったようで気分が高揚した。
レストハウス内は雨宿りしている登山者が溢れ入れない。
しかたがない、軒先で空模様を眺めながらしばし
休憩する。山の神といえばちゃっかり高山植物を
見つけて山荘周辺の散策を始めた。
・・・
いくら待っても霧が晴れる様子もないし、周りを
見回しても誰一人として西穂方面に歩き出す登山者がいない。
「ここで引き返してもいいよ」山の神は弱気だが雨は小降りなので腰を上げ独標に向かう。「天候が悪化し危なければその時は引き返そう」
濃い霧の先には何があるのか・・・
診療所の脇から不安な気持ちで上る。
 



            強風でピークの通過は難しい

富山の夫婦

稜線に出たが霧で何も見えない。北アルプスの尾根に立っているのにまるでその実感がない。「空しいなあ…」
崖状の岩場では足が竦み、半べそになった山の神を励まし
何とか独標までは上り詰めた。
誰もいない頂上で
「写真だけ撮ったら下りようか」
とその時、前方の岩場から雨合羽姿の男女が上ってきた。
それは朝、登山口まで一緒だった富山のご夫妻だった。
なんで戻ってきたんだろう?奥さんの話しを聞くと…
「この先にあるピラミッドピークの下で凄い風が吹きまくり
 恐くなったので戻ってきちゃった」
「そうですか。転落でもしちゃお終いですもんねぇ」
「無理しません。お宅らは西穂まで行くんですよね?」
「いえいえ…(汗)初めからここまでの予定でした」
時間に余裕があれば西穂高岳までともくろんではいたが、こんなこわい話しを聞いたら腰が引けてしまった。

      
                次々と下山

山には慣れた感じのご夫婦だったが
「山は逃げないし、
天気の良い日にまた来ます」と潔く引き返していった
あと二人だけがぽつんととり残された。
「何も見えないんじゃ長居無用、我々も下りようか」
腰を上げると一瞬雲が動き青空が顔を見せた。ひょっとするとお天気が回復するかも知れない。 気が変わって
コーヒーを沸かして待つ事にした。
しばらくすると登山者が次々と上ってきて、狭い頂上も
人で埋まってきた。だが依然視界は悪く、この先まで
進もうとする勇敢な登山者はいない。皆さん休憩した後
あきらめ顔で引き返しまた二人だけになってしまった。
グツグツ鍋の湯も沸いた。コーヒーを入れ飲みながら粘る…
 

   
               西穂が見えた!
時間後・・

次第に雲の流れが早くなりぱあ〜っとガスが途切れると目の前に荒々しい岩肌の稜線が出現した。幾つものピークの奥にどっしりと西穂高岳が控えている。
「うわー!これが穂高連峰か迫力満点やなぁ」
こんなまじかで見れて待った甲斐あったね」

だが感動も束の間、瞬く間ガスが覆い隠してしまう。

もっと晴れろ〜!と心で叫びながらさらに粘る。
上ってきた時は寒々とした岩峰だったが天候が回復し穏やかで明るい雰囲気に変わっていた。その後も入替わり立ち代り登山者が上ってきて、西穂高岳に向かう登山者もぼちぼち目に付くようになった。
 

2時間後・・

進む人、留まる人、あちこちで情報が飛び交い
頂上は再び賑わってきた。そんな中、簡素な合羽
を着た若い女性が近くに座った。誰と会話するでもなく食事を手早く済ますと、ためらうことなく
目の前の岩峰を下り視界から消えた。
あ然!
学生風でひ弱な感じがしたのでそれは予想外の
行動だった。
「女の子1人で大丈夫かなぁ」
十数分後、険しい岩稜を果敢に上り返す彼女が
視界に入った時…

「次は西穂高岳まで行きたいね」
と山の神が
つぶやいた。無理やろたぶん・・・
2時間もいたのでそろそろ下山しよう。
 


             岩壁に挑む

   
   笠ヶ岳だー


上る時は闇のような世界だったが天候も次第に
回復し、沸き立つガスの合間から周囲の山並みも
望めるようになった。

「北アルプスの稜線を歩いているなあ」
ここにきて
やっと実感できた。下山途中、西穂山荘で1泊
する中年女性と一緒に下りたが荒れた天気を気にするでもなく、山に抱かれる素晴らしさを心から愉しんでいる様子でアルプス登山の魅力を教えられたような気がした。
山荘広場に戻り雨合羽を脱ぎ一息入れる。廻りは小屋泊の登山者ばかりなのか皆さん身軽になってゆったりと寛いでいる。
「のんびりできていいなぁ。でも小屋は満員か」
 

     
                 きゃあーー
地震だー

「明日は晴れそうだからここに泊まりたいね」山の神が
山荘の中を興味深く覗いている。先ほどの女性と一緒に 歩くうち小屋泊まりしたくなったようだ。だが、、
畳一枚に何人もくっつき他人の足を鼻先に寝るなんて
「嫌じゃ、嫌じゃ。そこまで山好きじゃないぞ」

西穂高の稜線歩きも無事初体験できたし、これで十分、
あとは宿に戻って温泉に入ることしか頭にない。
朝とは違い青空の広がる千石尾根をのんびり下る、と
その時グラグラ〜
樹林がゆらゆらと揺れ、お腹を抉られるような不気味な
音が響き渡る。身体中に緊張が走り思わず身構えた。
「今の地震?」山の神はすでに涙声になっている。
揺れはすぐ治まったが、また地震が襲ってきて大木の
下敷きにでもなったら大変だ〜。のんびり気分は一転!
急いでロープウエー山頂駅に下る。
     
                 中尾温泉
噴火?

その日、宿での夕食時、ドスンドスンと縦揺れ、部屋に戻り
テレビを観ていても地震情報すら流れない。

「ねぇ、山奥の温泉だからニュースが流れてこないの?」
「あほか、NHKは全国何処で見ても一緒じゃ」
「ほんならこの揺れいったいなんなの?」

床についたが揺れは断続的に起こる。どうも地震と揺れ方と違うような気がする。まさか!!焼岳噴火の前触れだったら溶岩に飲み込まれる前に逃げ出さないと。。。
だんだん心配になって階下に下りると他の宿泊客も部屋から出てきてざわつき始めた。しばらくすると宿の主人
が出てきて関係機関に問い合わせたら「震源地は東の方で焼岳の噴火活動ではありません」と話してくれた。
これで一安心、だがその夜、山の神はなかなか寝付かれなかったようだ。
 

    
                西穂独標

翌日はクマ牧場で遊びゆっくりと帰宅。
家で夕方テレビを見ていると昨日発生した長野群発地震のニュースが流れていた。

「今頃になって何をゴチャゴチャ言ってるの!」
「なんでもっと早く、起きた日に流さんの!」
「怖い思いさせて、もぉ受信料払わんでね!」

地震嫌いの山の神は怒りがおさまらず、テレビに向かって捲くし立てていた。

ああコワ・・・

(平成10年8月7日14時頃から長野・岐阜県境で群発地震が発生した。)


 

 

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